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大阪地方裁判所 昭和52年(ワ)4527号 判決

原告

中島好枝

被告

太平洋海事サービス株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは各自、原告に対し、金三二七万二三三七円およびこれに対する昭和五一年一一月六日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用中、補助参加によりて生じたものはこれを二分し、その一を原告補助参加人の、その余を被告らの各負担とし、残余のものはこれを二分し、その一を原告の、その余を被告らの各負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告に対し、金六七四万七七一六円およびこれに対する昭和五一年一一月六日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

1  日時 昭和五一年一一月六日午後三時二五分頃

2  場所 大阪市住之江区南港西二丁目無番地先交差点(以下、本件交差点という。)内

3  加害車 普通乗用自動車(横浜五五ね第七、三一八号)

右運転者 被告 長岡

右所有者 被告会社

4  被害車 普通乗用自動車(泉五五や第六、〇五二号)

右運転者 原告補助参加人

右同乗者 原告

5  態様 本件交差点を東から西に向つてほゞ通過し終えようとしていた被害車左側面後部に対し、南から北に向つて本件交差点内に進入して来た加害車が、衝突し、被害車左後部の座席に同乗中の原告を、負傷させた。

二  責任原因

(一)  被告会社(運行供用者責任、自賠法三条)―被告会社は、加害者を所有し、自己のために運行の用に供していた。

(二)  被告長岡(一般不法行為責任、民法七〇九条)―前方不注視、制限速度違反の過失

三  損害

1  受傷等

イ 受傷 左鎖骨、左第二、第三、第五肋骨々折

ロ 治療経過

(ⅰ) 入院 昭和五一年一一月六日から同月九日まで四日間、南港病院

右九日から同五二年二月一三日まで八七日間、ミスミ病院

合計九一日間

(ⅱ) 通院 同月一四日から同月二五日まで四日間、同病院

同年三月四日から同年六月三〇日まで五七日間、阪和病院

(ⅲ) 症状固定日 昭和五三年四月二五日

2  治療費 金一六〇万三四八〇円

3  入院雑費 金五万四六〇〇円(一日につき金六〇〇円の割合による。)

4  通院交通費 金五万円

5  休業損害 金二七四万一三三三円

単価 平均月収、金一六万円(和裁仕立業)

期間 本件事故日(昭和五一年一一月六日)から同五三年四月二五日までの五一四日間

算式 一六万÷三〇×五一四≒二七四万一三三三

6  後遺障害に基く逸失利益 金一一七万三〇四三円

後遺障害の内容 左肩関節の機能障害として、後遺障害別特級表一二級六号に該当する。

年収 金一九二万円(前記一六万×一二=一九二万)

労働能力喪失率 一四%(前記一二級)

労働能力喪失期間 五年

ホフマン係数 四・三六四

算式 一九二万×〇・一四×四・三六四≒一一七万三〇四三

7  慰藉料 金二八〇万円

入通院分 入院三月、通院一四月なので、金一二〇万円

後遺症分 金一六〇万円

8  弁護士費用 金八〇万円

四  損害の填補

1  原告は、被告会社より、金二四七万四七四〇円の支払を受けた。

2  残損害額 金六七四万七七一六円

五  本訴請求

よつて、請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は、本件不法行為の日から民法所定年五分の割合による。)を求める。

第三請求原因に対する認否

請求原因一項1ないし4、二項(一)、三項2、四項1の各事実をいずれも認め、同一項5、三項1の各事実はいずれも不知、その余の各事実をいずれも否認する。

第四被告らの主張

一  損害について

1  原告は、一方において、本件事故当時、和裁業を営み、月収、金一六万円もの高収入を得ていた旨主張しつゝ、地方において、納税証明書は勿論、注文書、領収書、帳簿書類等を一切提出しないのみならず、税金を全く納付しないで、国民健康保険も最低額のみ支払つているという実情にある。したがつて、原告の主張の如き高収入が存したか否かは、甚だ疑わしいので、その月収は、賃金センサスに基いて、算定されるべきである。

2  原告の受傷部位は、鎖骨ないし肋骨等であつて、比較的早期に治癒する性質のものと考えられるのに、原告は、骨折の治癒後も疼痛を訴え、長期にわたり治療を継続していたものである。したがつて、心因性の要因も否定し得ないので、その治療期間のすべてが本件事故と因果関係を有するものか否かについては、疑義が存する。

3  原告の後遺障害は、自賠責保険の調査事務所において、原告主張の前記等級表一二級六号には該当せず、同表一四級一〇号(局部に神経症状を残すもの)に該当するにすぎない旨、事前認定されているので、その点を斟酌されたい。

二  原告側の過失について

1  本件事故は、信号機の設置されていない、見通しの悪い交差点における、西進車(被害車)と北進車(加害車)の、出合頭の衝突事故であり、双方に速度違反等の過失の存した共同不法行為であるが、次の理由により、加害車の過失割合を三、被害車のそれを七とすべき、被害車の過失割合の方が甚だ大きな事故であつた。すなわち、加害車には、左方車として優先通行権が存したのみならず、本件交差点は、その西側において、一定車両の通行のみが許され、西側入口の一部には鉄柵が設置されていて、実質上三差路となつており、しかも南北道路に比べ、東西道路は、車両通行量が少なかつたので、西進車には、一時停止の義務が課せられていたものというべきところ、被害車(原告補助参加人運転)は、左前方約二六・三メートル先の地点に加害車を発見しながら、自己が先に本件交差点を通過できるものと軽信し、加速進行したため、本件事故を発生させたものであるから。

2  ところで、原告と原告補助参加人とは姉弟の関係にあり、原告は、本件事故の当日も、原告補助参加人宅より、その家族と共に、大阪南港に寄港中の日本丸(帆船)を見物に行く途中であつた。すなわち、原告は被害車を運転していた原告補助参加人と単に親族関係を有していたのみならず、被害車が、帆船見物という共通目的のために運行されていた点に照らすと、共同運行供用者に該つていた。したがつて、原告と原告補助参加人の関係は、好意同乗の域を超え、被害者側として一体視し得る状態にあつたものであるから、原告補助参加人の前記過失は、すなわち、原告の過失として、過失相殺の対象となり得るもの、というべきである。

3  それだけでなく、原告は、原告補助参加人に対しては、一切損害賠償請求をする意思がない旨、断言(すなわち、連帯の免除)している。

第五被告らの主張に対する原告の反論

1  本件事故は、加害車が、本件交差点をまさに渡り終えようとしていた被害車の左側面後部のドア部分に対し、時速七〇キロメートル(法定制限速度時速四〇キロメートル)の高速で、衝突したものであつて、被告長岡の一方的過失ないしはそれに近い過失により発生したものである。

2  それはともかく、仮に原告補助参加人になんらかの過失が存したとしても、被告らと原告補助参加人とは、被告ら主張のとおり、共同不法行為(不真正連帯債務)の関係に立つものであるから、原告としては、被告らに対し、全損害の賠償を請求し得るものであり、被告らが、原告補助参加人の過失をもつて、過失相殺をする旨主張することは、許されない。

3  なお、被告ら主張のとおり、原告は、原告補助参加人の姉ではあるが、原告は、独自にマンシヨンを借りて和裁の収入で生活しており、その生活は、原告補助参加人とは全く別個のものであり、独立していた。したがつて、原告補助参加人の過失をもつて、被害者側の過失とした上、原告につき過失相殺をすることも、許されない。

第六証拠〔略〕

理由

一  事故の発生および責任原因

請求原因一項1ないし4、二項(一)の各事実は、いずれも当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一、第三、第六ないし第一一、第一三、第一四、第一八、第一九号証を総合すると、同一項5、同二項(二)の各事実を認めることができ、これを左右するに足る証拠はない。

そうすると、被告会社には、自賠法三条により、被告長岡には、民法七〇九条により、いずれも本件事故に基く原告の損害を賠償する責任がある。

二  損害

1  受傷等

成立に争いのない甲第二一ないし第三〇号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第四号証および原告本人尋問の結果を総合すると、以下の事実を認めることができる。すなわち、原告は、本件事故により、頸部、左胸部挫傷、左鎖骨々折、左第二、第三、第五肋骨々折の傷害を受け、請求原因三項1ロ(ⅰ)記載の事実のとおり、入院し、さらに、昭和五二年二月一四日から同月二五日まで(実日数四日間)、ミスミ病院に、同年三月四日から同五三年四月二五日まで(実日数一五〇日間)、阪和病院に、各通院したが、同日症状が固定し、左記内容の後遺障害を残存させるに至つた。なお、右後遺障害は、自賠責保険の調査事務所により、後遺障害別等級表一四級一〇号(局部に神経症状を残すもの。)に該当する旨、事前認定されている。

他覚的所見――左肩に運動制限が残存している。すなわち、右肩関節の前方挙上は、自動・他動共に一八〇度、側方挙上は、自動・他動共に一八〇度、後方挙上は、自動五〇度、他動六〇度であつて、いずれも正常可動範囲(前方挙上――一八〇度、側方挙上――一八〇度、後方挙上――五〇度)(但し、右記正常可動範囲は、公知)以上であるが、左肩関節の前方挙上は、自動一七〇度、他動一八〇度、側方挙上は、自動一二〇度、他動一四〇度、後方挙上は、自動四〇度、他動五〇度であつて、正常可動範囲に達しない部分がある。

自覚的所見――左肩関節に疼痛が残存しており、現在でも無理をすると背中が疼く。

以上の事実を認めることができ、これに反する程の証拠はない。

ところで、「障害等級認定基準」(労働省労働基準局長通達)(法規に準ずるものと考えられる。したがつて、本来、証明の対象外というべきであるが、仮に証明の対象内としても、公知である。)による前記等級表一二級六号(一上肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの。)に該当するか否かのメルクマールは、右関節の運動可能領域が、健側の連動可動域の四分の三(前方挙上――一三五度、側方挙上――一三五度、後方挙上――三七・五度)以下に制限されているか否かであり、また、同表一四級一〇号(局部に神経症状を残すもの。)に該当するか否かのメルクマールは、〈1〉一二級一二号より軽度の障害が存するか否か、〈2〉自覚症状が単なる故意の誇張ではないと医学的に推定されるものであるか否か、等である。そこで、右二つのメルクマールに照らして、前記認定の事実につき考えてみると、原告には、症状固定当時に、同表一二級六号に該当する程度の後遺障害は、いまだ残存していなかつたものの、同表一四級一〇号に該当する程度の後遺障害は残存していたもの、といつて差し支えない、と考える。

2  治療費――金一六〇万三四八〇円

請求原因三項2の事実は、当事者間に争いがない。

3  入院雑費――金五万四六〇〇円

前記認定事実によると、原告の入院期間は、合計九一日間であつたことが明らかであるが、本件事故当時の入院雑費は、経験則上一日金七〇〇円を相当と認めるので、その範囲内である、原告主張の、一日金六〇〇円の割合により、計算すると、金五万四六〇〇円となる。

算式 六〇〇×九一=五万四六〇〇

4  通院交通費――零

原告本人尋問の結果中には、原告が、スミス病院への通院を電車でし、また、三回程タクシーを利用していた旨の供述が存するけれども、その金額は明らかではなく、他に、右金額を確定するに足る証拠は、見当らない。したがつて、原告の通院交通費を肯認することは、不可能である、というほかない。

5  休業損害――金二一五万三二五〇円

イ  単価

原告本人尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すると、原告は、本件事故当時、和裁仕立業をして生計を立てており、経費(糸代やアイロン使用のための電気代等)を含めて、月平均、金一四、五万円の収入を得ていたことを認めることができ、これに反する程の証拠はない。なお、被告の「原告は、税金を納入しておらず、国民健康保険の支払額も最低額にすぎない」旨の主張は、仮に右主張を裏付けるに足る証拠が存したとしても、原告の右の程度の月収を覆えすためには、十全とはいゝ難い、と考える。そうすると、原告の休業損害の単価は、右の金一四、五万円の平均値である金一四・五万円(一四+一五=二九、二九÷二=一四・五)から経費一割(その程度と見るのを相当、と考える。)分を控除した残額の、金一三万〇五〇〇円とするのが相当である、と考える。

算式 一四万五〇〇〇×〇・九=一三万〇五〇〇

ロ  期間

原告本人尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すると、原告は、本件事故日から症状固定日(昭和五三年四月二五日)頃までの約一八・五ケ月間、前記和裁仕立業を休んだことを認めることができ、これに反する程の証拠はない。

しかしながら、前出甲第二三ないし第二九号証によると、原告の実通院の状況は、右一八・五ケ月間中の最後の約四ケ月間において、通院の間隔が、その前の期間に比し、比較的疎薄になつている(同第二九号証参照)ことを認めることができ(これに反する証拠はない。)るので、原告の休業損害中、右一八・五ケ月間中の一四・五ケ月間については一〇〇%、その後の四ケ月間については五〇%をもつて、本件事故と相当因果関係のある損害とすべきである、と考える。

ハ  金額

そうすると、金二一五万三二五〇円となる。

算式 一三万〇五〇〇×(一四・五+四×〇・五)=二一五万三二五〇

6  後遺障害に基く逸失利益――金一四万五七四七円

原告の年収は、前記認定事実によれば、金一五六万六〇〇〇円(一三万〇五〇〇×一二=一五六万六〇〇〇)であり、また、その労働能力喪失率は、前記認定のとおり、原告の後遺障害が前記等級表一四級一〇号に該当する程度のものであることに照らすと、五%とするのが相当であり、その労働能力喪失期間は、前記1の認定事実に照らすと、症状固定時以降二年間(新ホフマン係数は、一・八六一四、小数点第五位以下切捨)とするのが相当であるところ、次の算式により、金一四万五七四七円(円未満切捨)となる。

算式 一五六万六〇〇〇×〇・〇五×一・八六一四≒一四万五七四七

7  慰藉料――金一四九万円

前記認定の、本件事故の態様、受傷の部位と程度、入通院期間、後遺症の内容と程度、年齢、職業、その他諸般の事情を総合考慮すると、金一四九万円とするのが相当である、と考える。

三  損害の填補

請求原因四項1の事実は、原告の自認するところであるから、残損害額は、金二九七万二三三七円となる。

四  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、金三〇万円が相当である、と考える。

五  被告らの主張二について

1  本件事故は、前記一で認定したとおり、加害車と被害車が衝突したことにより、原告を負傷させるに至つたというものであつて、いわゆる共同不法行為(すなわち、不真正連帯債務)に該当する。したがつて、原告としては、原告補助参加人(被害車の運転手)の過失の存否と程度に関係なく、被告らに対し、そのこうむつた損害の全額を請求できるものと考えられるから、もし仮に、被告らが、単に原告補助参加人に過失が存した点のみを把えて、原告に対する過失相殺を主張しているのであれば、その主張自体理由がないもの、といわざるを得ない。

因に、原告本人に過失が存した旨の主張、立証は、存しない。

2  次に、被告らは、原告補助参加人の過失が、被害者側の過失に該当する等と称して、原告に対する過失相殺を主張しているので、この点について、以下に検討する。

成立に争いのない甲第八ないし第一〇、第四二ないし第四七号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる同第四〇、第四一号証、原告本人尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができる。すなわち、原告は、結婚歴を有しない独身者で、こゝ一四、五年間独り暮しをし、一二、三年前より、前記認定のとおり、和裁仕立業をして生計を立てており、原告補助参加人(原告の弟)に経済的に世話になつた事はなく、本件事故当時は、大阪市住吉区所在の寺岡マンシヨンに一人で居住していた。しかして、原告は、本件事故の当日、たまたま、原告補助参加人の家に遊びに行つていたところ、大阪南港に帆船が寄港中であり、原告補助参加人の子供達が見物に行くというので、原告も、珍しさに駆られて、同行することにし、本件事故当時、原告補助参加人が所有しかつ運転する被害車に原告補助参加人の家族らと共に同乗していた。

以上の事実を認めることができ、これに反する程の証拠は、ない。なお、他に、被告らの右主張に沿う証拠は、存しない。

そこで考えてみるに、右認定の事実の程度では、原告が、被害車の共同運行供用者であると考える事は著しく困難であるのみならず、原告と原告補助参加人とが身分上ないし生活関係上一体をなしていたものと考える事もまた極めて困難である(したがつて、原告補助参加人の過失をもつて、被害者=原告側の過失とみなす事は、できない。最高裁判所昭和四二年六月二七日判決、参照)から、結局、被告らの右主張は、理由がない。

因に、被告らの主張二、3に対する判示は、後記4のとおりであるが、もし仮に、右の被告らの主張二、3が、原告補助参加人の過失をもつて被害者側の過失とみなしてもよいとの理由の一部として、述べられているものであるならば(そのようにも読めるし、また、そのような説も存する。)、当裁判所としては、そのような考え方は採用しないものである、というほかない。

3  なお、前記認定事実によれば、原告は、被害車につき、単純なる好意同乗者の立場にあつたものというべきであるが、単純なる好意同乗を理由に原告の損害額を減額できるのは、当裁判所としては、好意同乗者(原告)の被同乗者側(被害車の所有者や運転者等)(すなわち、原告補助参加人)に対する損害賠償請求権に対してのみであつて、被告らに対する損害賠償請求権に対しては、これをなし得ないもの、と解するのが相当である、と考えている。

因に、被告らは、本件において、好意同乗に基く減額を、明示的に主張しているものとは、見受けられない。

4  更に、被告らは、原告が、原告補助参加人に対して、一切損害賠償請求をする意思がないと断言していた旨主張しているので、この点について、以下に検討する。

原告本人尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すると、一応、「原告としては、本件事故につき原告補助参加人に落度があつたとは思えないので、原告補助参加人から損害賠償金をもらうつもりはない」旨の事実(これに反する程の証拠は、ない。)を認めることができる。なお、他に、被告らの右主張に沿う証拠は、存しない。

ところで、被害者である原告が、共同不法行為者の一方(原告補助参加人)に対して、債務免除の意思表示をした時に、右意思表示の効力が、共同不法行為者の他方(被告ら)にも及ぶもの(すなわち、絶対的効力を有するもの)と考えられる場合は、原告において、共同不法行為者間の負担割合等を知り得べき状態にあつた上、共同不法行為者の一方より原告に対して、既に、既払ないし支払約束が存し、しかも、原告が、右の既払ないし支払約束で満足し、自己の損害の全額が減額される結果となることを知りつゝ、その余の損害賠償請求権を放棄する旨の、明確な意思表示をなした時に限られるもの、と解するのが相当であるところ、右認定の事実の程度では、絶対的効力を有する免除の意思表示の存在は勿論のこと、そもそも、原告が、法的な意味を理解した上で、債務免除の意思表示をなしたものと推認していゝものかどうかすら、甚だ疑しい。したがつて、結局、被告らの右主張は、理由がない。

六  結語

よつて、原告の本訴請求は、主文の限度で理由がある(なお、遅延損害金は、本件不法行為の日である昭和五一年一一月六日から支払済まで民法所定年五分の割合による。)から正当として認容し、原告のその余の請求は理由がないから失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九四条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 柳澤昇)

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